くるびじゅて な〜に?
〜寵猫抄より

                ( お侍 拍手お礼の六十二 )
 


なんかね、このごろ、あめあめでさむさむじゃない?
うん、おコタさん ナイナイしたのは、
キュウも もぉいぃのネ。
でもね、なんかね、
くちんって しちゃう あしゃがいっぱいぱいなのね。
きょおも、さむさむで、ぃびんぐで むうう〜ってしてたら、
シチがおいでおいでって。
おしゅごと終わったよって、来てくりたのねvv

  あのね?(こそこそ)
  シチの おひじゃってね?(こしょこしょ)
  いーによいがして、
  ふかふかでホカホカなのよ?(ひそひそ)
  こりは シュマダとキュウだけの しみつなの。
  しみつよ? いぃい?


……と、
それはそれは神妙なお顔で言い切られたけれど。
このお話、公開するつもりなんだがなぁ。
(う〜ん)



  ◇◇


一年の半分、折り返し地点の六月は、衣替えの六月でもあり。
殊に今年の関東では、
発電所の機能復旧が危ぶまれている関係から、
真夏には電力不足の恐れありと今から警戒されているがため、

 「今年は“スーパー・クール・ビズ”ですって、勘兵衛様。」

民放の情報ワイドショーどころじゃない、
国営放送の定時のニュースの中でも扱われており。
上着なし、ノーネクタイどころじゃあない、
アロハシャツや、沖縄の“かりゆし”という、
いかにも夏向けのプリントシャツが注目されているとか。
足元も、前から見る分には革靴だが、実はかかとがないサンダルだとか、
様々な商品が続出しており、

 「まあ、ウチは関係がない話ではあるが。」
 「あ。そんなお言いようはないでしょう。」

確かに、こちらのお宅の世帯主である島田勘兵衛氏は、
毎朝会社へ通勤する“勤め人”ではない。
サマータイムもフレックスもない“在宅勤務”の、
いわゆる“作家”という自由業をこなしておいでなので、
どんな恰好をしていようが、
誰から咎められるでもなし…と言いたいのだろう。
大窓に掛け直された夏向きのカーテンのタッセル、
さらさらの房が下がっているのが気になるか。
一人遊びの延長で、
よいちょと後足で立っちしてまで取りすがり、
爪の先だけ引っかけては やややと驚き、
えいえいっと慌てて振り払う…を繰り返していたものの。
勘兵衛が新聞を持ってやって来たの、
大きめのお耳をひょこひょこと震わせ察知すると、
そっちの方が好き好きと、
みゃみゃっと反応し、後足跳ね上げるように駆けてって。
七郎次がお茶とミルクとを運んで来た頃合いには、
よーいちょ・よいちょと頑張って、
ソファーに腰掛けた勘兵衛のお膝までという、
自力でのよじ登りが完了しておいで。
小さな小さな毛玉みたいな仔猫にはさぞかし難事業であっただろうに、
甘やかしてはいかんとばかり、
登り切るまでは手を出さない勘兵衛で。

 “でも、そのくせ……vv”

無事に到着するまでは、見ないようにとの意識をしつつ、
他が全く手につかないのだもの。
それもまた立派な親ばかですよと、
いつか言ってやろうと思う七郎次だったりし。

  …って、何の話をしてたんでしたっけ?

 「にゃんみゃう・みゃあい。」

小さな小さな、ぎゅうひのお餅で作ったようなやわやわなお手々で、
勘兵衛が広げた新聞の紙面をわしわし叩いた仔猫様。
他の人には毛糸玉のポンポンみたいな小さな仔猫、
でもでも、こちらの二人には、
小柄な五歳児ほどの男の子にしか見えぬので。
ぺしぺしと新聞を叩く仕草も、随分なご乱行に見えてしまう。

 「ああ、これこれ久蔵。」

何を興奮しておるかと、
小さなお手々をそおとつかまえ、
その下の記事に眸を落とせば、

 「ああそうだった。すーぱー・くーる・びずとやらだったな。」
 「ええ、そうですよ。」

自分だって、愛らしい久蔵坊やへ見とれていたくせに、
自分は覚えていたように言い返した敏腕秘書殿。

 「ウチは関係がないなんて仰せでしたが。」

話を戻しましてとの仕切り直し、
んんんっともっともらしく咳払いをした彼曰く、

 「家作の揉めごとで裁判所へ行くときなどは、
  一応のネクタイしてかないと。」

年嵩な相手だと、舐めてかかられてしまいますしと、
ちょいと目許を座らせてしまい、

 「私ばかりじゃありません。
  勘兵衛様だって、出版社からの取材があれば、
  それなりドレスアップさせられておいででしょうに。」

 「う…。」

お茶をテーブルへと置くついで、
わざとらしくも ぐぐっと身を乗り出して来た彼であり。
のけぞった壮年殿の身の傾きように合わせ、
大好きな勘兵衛の広いお膝へ乗っかっていた久蔵までもが、
あややとその身を傾けてしまい、おとと・こてんと転げたほど。
それを間近で見やってしまったためだろう、

 「あああ、ごめんごめん。久蔵まで脅かしたかな?」

そも、本気で憤慨していた訳じゃなし、
座った格好のまま横倒しに転げた格好の可笑しさに、
苦笑がついつい浮かびつつも、
その手を伸ばして、ほらと起こしてやれば、

 「…………勘兵衛様?」
 「儂も起こしてくれんか。」

何を甘えておいでですかと、
窘めるように言い返しつつも…結局は、
久蔵にしたのと同じようにと引っ張れば。

 「………わっ☆」

大きな手ががっしとつかんで来ての、逆に引き倒されかかってしまい。
懐ろには久蔵を抱え込んでいたもんだから、
引っ張り合いにもならずのあっさりと、
広くて深い、御主の暖かな胸元へ、
ぽそりと引っ張り込まれた白皙の美人秘書殿だったのだけれど、

 「みゃうみぃ〜〜〜。」
 「あわわ、ごめんごめん。」

いくら大好きな両親だとて、
それなりの体格をした男性二人に挟まれては苦しかろ。
自分たちには人の子供に見えてはいるが、
本当の実体は小さな仔猫の方かも知れぬ。
ごめんねごめんねと身を離してから、
あらためてよしよしと撫でてやる七郎次であり。


  なちゅは“しゅぱ くる びじゅ”なんだって。
  でもまだしゃむいから、ヘイしゃんもネクタイしてゆのよ?
  はやく あちあちにならないかなぁ。
  シチはあちゅいの いやいやゆうけど、
  あまあまでひえひえのアイシュ、食べたいものねvv


まだまだ情緒より食い気の仔猫様だったようでございます。



  〜Fine〜  11.06.01.


  *バレンタインデーのチョコ同様、
   アイスも、カップ1個…は さすがに多いから、
   半分までは大丈夫という暗示を
   兵庫さんに言って
   七郎次さんへ掛けてもらう気 満々だったらしいです。
(笑)

   《 だから、そのくらいは自分でだな〜〜〜。》
   《 ??? 》

   兵庫さん、無駄だ無駄だ。
   いっそのこと、七郎次さんには黒いGが怖くなくなる暗示を

   《 それを掛けると、あの家の風物詩がなくならんか?》

   ふ、風物詩……。

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